私は、アナタ…になりたいです…。
信じられない?
約束の場所に指定されたカフェに着くと、河佐咲知は両腕を交差させた格好で掌を膝の上に置いていた。


「ごめん。遅くなって…」


謝りながら席に着こうとする僕に彼女は勢いよく頭を下げ、「お忙しいのにすみません…」と謝り返してきた。

腕を交差させたままもじもじ…と上体を揺らしている。
どこかオドオドしている様にも見える彼女の姿は、変な違和感を感じさせた。



「河佐さん…どうかした?」


覗き込むように顔を眺めた。
ビクッと背筋を伸ばした彼女が、きゅっ…と唇を噛み締める。


「いえ、別に…」


わざとこっちを見ない様にして目を逸らす。
その仕草は、これまで付き合ってきた女性達と同じものだった。


(まさか…)…と思いながら彼女の表情を見続けた。

カフェの店員にエスプレッソを頼んだ後も、彼女は一向に自分から話そうとしない。
頭の中に浮かんだ良くない思いを吹っ切るように、こっちから声をかけた。



「穴場なんですか?この店…」

「えっ…?」


驚くように目線を上げたのを見て、(しめた…!)と思った。


「なんだかお客さん少ないし、皆、思い思いの行動とってるから…」


目線をあちこちのテーブルに向けながら理由を話した。


壁際の席では熱心に読書している男性の姿があった。
奥のテーブルでは、いっぱいの教科書や参考書を広げた学生が勉強している。
カウンターの隅で絵を描いてる女性がいるかと思えば、窓際の老女はぼんやりと外を眺めていた。

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