私は、アナタ…になりたいです…。
翌朝も出社してきた彼を待ち構えていたかのように女子達が取り囲む。
その様子をロビーに設けられた待合室から見かけ、私は軽く気落ちしていた。


持て囃される人は大変だけどいいな…と思う。
それだけの魅力があるってことだし、だからと言って偉ぶる訳でもない。
年齢性別問わず誰とでも気軽に会話ができ、信頼もされている。

人を惹きつけるのが一種の才能なら彼はその才能をフルに発揮しているだけなのだ。


あんな人を見ているとすごく落ち込む。
自分に無いものばかりを兼ね備えているところが羨ましくて仕方ない。
知らなくても良かった人の優しさや注目される理由がなんとなく分かってしまったのも悔しい。

競争相手にもなれる訳でもないのに勝手に落ち込む自分も嫌。
あの人はあの人。自分は自分。
何度言い聞かせても常に思考がそこへ戻るのはどうしてだろう。

輝かしい理由で注目される彼と、欠点だらけの自分に向けられる視線。
種類の異なる視線にイライラする。
本当に劣等感ばかりが身を包む。




「河佐さん」


丸っぽい声に気づいた時、私の手にはテーブルを拭くダスターが握られていた。
待合室のテーブルを拭くのは受付の仕事で、私はそれをしている最中だった。


「おはよう。今日は目の調子いい?」


爽やか過ぎる笑みを見せて、顔を覗き込もうとしてる人がいた。
腰を屈ませた体勢でいる私の視界に入ろうとして、大きく上体を前に倒した。


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