私は、アナタ…になりたいです…。
「誕生日っていつなの?」


「9月30日です。キンモクセイはいつも10月の初めに咲く花だから…」


あれこれ…と自慢料理を少しずつ盛っては出してきてくれる。
ここに来ると必要以上に食が進むのは、きっとお客さんの食べる量を見極めながら女将さんが料理を出しているからなんだ…と思った。


「残念!9月30日ならもう過ぎちゃったわねー。私の自慢のケーキでも作ってあげようかと思ったのに…」


娘も同然だから…と笑いながら話してくれる。

朗らかな女将さんの娘でいたら、コンプレックスも何も感じないのかも…と考えた。



田所さんは私達の話を聞きながら、ちびちび…とお銚子を空けていた。

珍しく食べる箸よりも飲む方が進んでいて、母の話はしない方が良かったのかも…と思われた。

お銚子を4、5本空けたところで女将さんが田所さんの手を止めた。



「悠ちゃんペースが速いよ。飲み過ぎたらさっちゃんを送って行けなくなるだろ?もうお止め!」


取り上げられたお猪口を「返して下さい…」とねだる田所さんを、女将さんは頑として突っ撥ねる。
少しだけ酔っ払っていると感じる彼は、拗ねる様に私に言った。


「河佐さ…咲知さん、女将さんに言って下さいよ。もう少し飲ませてあげて…って…」


「えっ、あの…」


いきなり名前で呼ばれてドキンとした。
目尻が赤くなっている田所さんの顔は、いつものカッコ良さよりもだらし無さの方が増している。



(可愛い…)


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