私は、アナタ…になりたいです…。
ついそんなふうに思ってしまい、プッと吹き出しそうになった。
覆い被さる様な格好で、田所さんが私に近寄ってくる。
肩に手を掛けられ、締まりのない笑顔を見せられた。


「今の咲知さんの顔、カワイ…」


呂律の回りにくくなっている舌で、私のことを褒め讃える。
いきなりな事が多過ぎて、どう対処していいか迷った。



「僕の母親も…生きてたらこんなふうだったのかなぁ…」


ぽんぽん…と頭や背中を確認するように叩きだす。
肩に回された手がぬくぬくとしていて、明らかに田所さんが酔っているのが分かった。


「た…田所さん、酔ってますね⁉︎ 」


凭れようとする顔を覗き込んだ。
左目だけを開けて、田所さんはじ…と私の顔を睨んでいた。



「ごめんよ…」


呟く様な一言を発して目を潤ませる。

誰に対して謝っているのか、それで何となく分かったけれど、どうしてなのか……その理由までは分からなかった。


田所さんはその後も珍しく食が進まなかった。今夜は私の方が、明らかに彼よりも多く食事をした。


店の外まで送られて女将さんに手を振った。
隣を歩く田所さんの足元は不安定で少しフラついていた。


「大丈夫ですか?田所さんがこんなに酔うなんて珍しいですね。あの日本酒そんなにアルコール度数高かったですか?」


私は最初の一杯を飲んだだけだったからよく分からないけれど、田所さんは他にもビールを1杯飲んでいたからアルコールは余計でも体に回ってるのかもしれない。

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