私は、アナタ…になりたいです…。
想像するのも怖くなる様な話を聞かされた。

田所さんのお母さんは意識不明のままオペをして、辛うじて胎児だった田所さんだけが助かったのだそうだ。


「下手すると親子共々…ってパターンだったけど、幸いなことに僕は大きな胎児で……栄養状態も良かったから何事もなく生還できたんです…。小さい赤ちゃんだったりしたら、羊水や血液を呑み込んで、あっという間に窒息死もあり得る状況だったそうです……」


くるくるとペットボトルのキャップを開け、一口だけ水を飲み込んだ。それを羊水や血液のように思えてしまったのは、それ以上の量を田所さんが口にしなかったせいだ。



「……母が胎盤剥離を起こしたのは、僕のせいなんです……」


がっくりと上体をうな垂れて、田所さんはペットボトルを握りつぶした。
グシャ…!という音がして、へしゃげるペットボトルを睨みながら、悔しそうな横顔をする田所さんのことを見返した。


「僕がもっと小さい胎児だったら……母の身体にあんな大きな負担を与えなかった筈だと思うんです…。妊娠期間中、母は切迫早産と診断されて、妊娠中期からずっと点滴とベッドに縛り付けられていた…。万一の事故が起きた時の為にと配慮されていた事だったのに、僕が生まれた日はあいにく他の出産も重なっていて医師も手薄で……。想定内ではあったにしても、全てが急過ぎて処置が遅れてしまった…。母は僕を意識のないまま産んで…そして、自分の胸に抱く事もなく…顔を見るでもなく……あの世に逝ったんだ……」


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