私は、アナタ…になりたいです…。
ペットボトルから滴る雫なのか、田所さんの涙なのかは判別しにくかった。
暗くてはっきりしない視界になっていたのは、私自身が話の途中から泣いてしまっていたからだ。


「河佐さんのことを見いてると、時々凄く羨ましくなります。君は自分が小さいことに劣等感を感じるかもしれないけれど、僕にとっては羨ましい。代われるものなら君に代わりたい…。君みたいなミニマムに生まれて、母に会って謝りたい…。自分ができた事で苦しめた…。何も楽しくない妊娠生活を与えたことに対して、感謝よりも懺悔をしたい気分なんです……」


ぎゅっと肩を抱かれ、胸に額を押し付けられた。
傷ついた子供のような心のまま大人になったみたいに見える田所さんの背中を、そっ…と包み込んだ。




「…………っ」



何か言おうかと思ったけれど、何も言えなかった。
田所さんの手が震えているのが分かって、返って悲しみが増してしまった。


泣いてはいけない…と思っても、涙が溢れて止まらなかった。
昼間のうちにメガネにしていて良かった…と、この時ばかりは思った。


ぐしゅ…と鼻水の音が響いて、田所さんが大きく息を吐いた。
少しずつ落ち着きを取り戻してくる様子に、自分もハンカチで目を拭った。


どの位の時間が経っているのか分からなかった。
通りに開いていた他の店舗は、疾うに閉店時間を迎えている。


明かりが消え始めた通りが、街灯だけになっていく。
さっきよりも肌寒く感じたのも、泣いて酔いが覚めてしまったせいだ。

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