強引上司とオタク女子
1.三次元は大変ですね


――見てしまった。


廊下の突き当りをちょっと曲がった死角にある、喫煙スペース。

普段は煙いのがキライだから近寄らないんだけど、自動販売機に投入しようとした100円が転がっていったから、身をかがめた状態でうっかり近づいてしまった。

そうしたら、不自然に重なる女性の足と男性の足が見えて。

そのまま視線を上げたら男性のスーツ姿の背中があって、女性の足はその更に奥にある。男の方が壁に腕をかけて、影になっている女性を見下ろしてる。

これって壁ドーン?

初めて生で見た!

興奮で声を上げそうになって、口を抑えて咄嗟にうずくまる。

危ない危ない。
どうやら気づかれてはいないらしい。

まあ私は、地面を這いつくばる虫のような格好になってしまったけれど。


「で?」

「だから、もう私、好きな人が……」

「それを言うのが、なんで今なわけ?」


会話は続く。しかも修羅場っぽい。
聞いてちゃダメだと思うのに耳が勝手にダンボになる。


「だって、言ったら怒るでしょう?」


あ、腕の隙間から顔が見えた。
今年の新人で十月から配属されてきた梨本(なしもと)さんだ。

うひゃあ、まだ入社して半年とかなのに、なんだかこじれた雰囲気のあるオフィスラブをしてるのね!
凄いな、これが女子力ってやつ?


「だからって言わないまま終わりにできると思うのかよ。こうやって顔合わせてんのに」


あれ、男の方の声にも聞き覚えがある。
まあここにいるってことは社内の誰かなんだろうから、当たり前っちゃ当たり前だけど。

えー誰? 一体誰ー!

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