強引上司とオタク女子
ようやく仕上げて、国島さんのデスクに、マニュアルを投げつける……もとい持っていく。
「出来ました」
「見せてみろ」
書類を手渡して、ジリジリと足は後ろに進む。
オッケー出たら、すぐ荷物まとめて帰ろう。余計な口を挟まれる前に早く!
今日の疲れは今日のうちに落としたい。
しかし、目の前の般若がそれを許さない。
読みながら、手に持っている赤ボールペンが、神の如き速さで動いている。
そして最後のページまで言ったところで、溜息とともに彼はペンを置いた。
「……雑だな、お前のマニュアル」
「は?」
「シュミレーションが足りないんだよ。成功した時の場合しか考えてねぇじゃん。雨が降った時はどうすんだ?ヒーローショーに人が詰めかけた時は? あらゆる場合を想定しろ。想像力を働かせろよ」
「……すみません」
そんな悪いことばっかり考えてたら、悪いことが的中しそうじゃん、嫌だよ。
「何事も予定調和で終わるなんて思うな。最悪の場合を想定しろよ」
ああもうわかったって。うっさいっつーの。
適当に流しておこう。
嵐は放っておけば勝手に過ぎ去るものなのだ。
つーか、そこを直して欲しいなら最初の時点で指示してくれりゃいいじゃん。
「はあ。すみません。以後気をつけます。マニュアルは明日以降に直しますので」
慎ましい顔をして頭をたれたその瞬間、心ない一言が頭に投げつけられた。
「その、模範解答みたいな受け答えもな、本心からじゃねぇのがバレバレだから」
「は?」
口元が引きつる。
落ち着け、私。キレたら負けよ。