強引上司とオタク女子
「国島さん、私こっちなんで」
自分の路線の方に逃げるように向かおうとすると、国島さんが早足でついてくる。
「ああ、俺もこっち」
「は?」
スマイルが固まって口元が引きつった。
なんで! 逃げられない!
仕方なくその後話していると、なんと向かう方向も一緒で乗り換える駅も一緒。
降りる駅も……嘘でしょ、一緒だ。
今まで一度も会ったこと無かったのに。
「……案外近くに住んでたんですネ」
「そのようだな。俺は北口だがお前は?」
「南口です。今日はお疲れ様でした!」
やっと離れられる!
安心して安堵の息が出た。
頭を下げて、南口の改札へ向かおうとした背中に、国島さんの声が追ってくる。
「また明日」
振り向いて会釈をすると、国島さんは爽やかな笑みを浮かべている。
昼間の鬼みたいな姿から見れば、カミサマのように神々しい。
普通の二十代女子なら、こういうのにときめくのかな。
でも私は違うよ。
リアルな恋愛なんていらない。
だって、誰かを好きになったって、その人は他の人を見ているんだもん。
好きになった人に好かれる。猛烈に口説いてくれる人を好きになる。そんな分かりやすいハッピーエンドが待っている二次元の世界がいい。
それだけで、私の心は満たされるんだもん。