強引上司とオタク女子
「結構で……」
スパンと断ろうとした時、スマホが鳴った。
「いいよ、出ろよ」
「でもこれメールです」
といいつつ、明日美からのメールだったので開いてみると、表示された画像に顔がニヤつく。
御影石くんが、英国紳士風の格好をしたパネルが映っている。
えっ、なにこれ。
垂涎モノですけど。
メール内容を読めば、どうも外出先で見つけたらしい。
【アキバで発見。ホームズに扮装だって。八重ちゃん喜ぶかなって思って(^^)】
ああああ、明日美様、大好き。
格好よすぎるー。
興奮が、私から周りへの配慮を失わせたらしい。
ひょいとスマホが抜き取られ、ニヤニヤする国島さんを見て我に返る。
「……そういうことか。オタクってやつか」
「や、ちょ、返してください」
「コスプレ喫茶とか行くタイプ?」
あああああ。
助けて、誰か時間を十分位戻して!
「や、あの、その」
「このヨーグルト買うのもそういうことか」
パッケージに書かれた、御影石くんの麗しいお姿。
潰さないで、潰さないで!
「つまりはこれが欲しいと」
上蓋をひらひらとされたので、奪い取る。
ああ、なんか色々終わった。
頭を抱えてうつ伏せになりながら呻くと、ぽんと頭に手が置かれた。
「よし。じゃあ、今度お前のオススメのコスプレ喫茶でも連れてけ」
「は?」
「恋愛ってな、お互いを理解するところから始まるんだよ」
予想外なことを言われて、私の胸で何かが小爆発する。
衝撃の後、残った余熱がじわじわと全身に広がっていく。
落ち着いてきてようやく、彼の姿を見る勇気が出た。
でもその時には、彼は立ち上がって給湯室へ消えていったところだった。