強引上司とオタク女子
「……噂になったら困るんです」
ちらり、と彼女が廊下の方を向いた。
そういえば、新しい男ができたとか言ってたっけ。
当然社内恋愛ってことだよね。
「何にも知らないんだから何も話さないよ。簡単にいえば興味がないの。だから心配しないで」
そう言ったら、彼女は少しだけ傷ついたような顔をした。
「そうですか」
そして静かに自席に戻っていく。
なんだなんだ。
心配するなって言ってるのになんでそんな顔をするのよ。
まあいいや。
マニュアル直しも定時までには終わりそうだし、今日は残業なしで明日美と会えるぞー。
*
【十八時には出れそう】
【じゃあ、外でご飯食べよう。八重ちゃんの会社の近くまで行くね】
そんなやり取りをして、就業時間を迎える。
面倒くさいことを言う国島さんは、三時頃外出してから戻ってきてないし、チャンスチャンス。
「お先に失礼します!」
「はい、お疲れー」
ほら。皆快く送り出してくれる。
私には期待してない。
いてもいなくても困らないし、代わりもきく。
それが川野八重という人間の立ち位置なわけ。