強引上司とオタク女子
チラリと国島さんを見ると頷いて追加情報もくれた。
「時間は三十分、脚本はすでにある。衣装も届いている……サイズが合うかは不明だが。一週間以内にセリフ録音が可能かきいてみてくれ」
「はい」
指示されたとおりにきいてみると三笠くんは頼もしく了承してくれた。
『団長とももう一度話して連絡するな。あと、アクションの演技は俺が指導できるから、契約決まったら脚本をまず送ってくれるか? こっちで何度か練習しておくよ』
「了解。じゃあとにかく宜しく」
『他ならぬ川野の頼みだからな』
電話越しのその声に、心臓が小爆発を起こした。
あれ?
テンパってたからかな。
三笠くんの言葉にドキドキしないように、いつもどこか身構えていたのに。
今のは不意打ちだ。
ダメだって勘弁して。今更気持ちが加速するとかやめてよ。
「……大丈夫そうか?」
心配そうな国島さんの顔に、現実に引き戻される。
助かった。軽く息を吸って平静を装う。
「一応団長に確認して折り返すそうですが、おそらく大丈夫です」
「はー、助かった」
国島さんが崩れるように隣の椅子に座る。
周りの皆も、一気にホッとしたように息をついて自分の仕事へ戻っていく。
その二十分後に、劇団の団長さんから再び電話がかかってきて、今度は国島さんが改めて詳細を伝え、口約束では契約成立。
同じ轍は踏まないぞとばかりに、電話を切った途端、国島さんが私に言った。
「川野、書類準備してくれ」
「はい。……梨本さんも来て?」
「え? あ、はい」
まだ瞼を腫らしている梨本さんに、契約書類を印刷させ、チェックをさせる。