強引上司とオタク女子

「いつも私がやってたから、山田さん知らなくて梨本さんに教えられなかったんだよね。ごめん、自分のことでテンパってて」

「いえ。私のミスです。作業内容を国島さんに報告するように言われていたのに、おろそかにしてました」

「まあそれもそうだね。そこは反省すればいいよ。気まずいからって話さないんじゃ仕事にならないしね。……あ、ここにハンコ押して」

ハンコを持ち上げた手が止まってる。
不審に思って顔を上げると、梨本さんが唇を噛み締めていた。
あら、ここは慰めなきゃいけないとこだったか。

「……ごめん」

「いいえ。川野さんの言うとおりです。……だから彼、はっきりさせようとしてたんですね」

壁ドーンの時か。
あの時はただ怒ってるんだと思ってたんだけど違うんだな。

これから一緒に仕事続けるために、区切りをつけようとしていたんだね。

「おっけ、国島さんに確認してもらって、オッケーなら部長のハンコもらって提出」

「はい。ありがとうございます」

おずおずと書類を持って国島さんのもとに向かう梨本さんの背中を見ながら、
私の頭にはなぜか三笠くんがちらついている。

やめてよ。消えて。
もういっそ早く結婚してくれればいい。

完全完璧に諦めさせてくれたら、きっと楽になるのに。

ごめん、明日美。
ドキドキしちゃってごめん。

頭のなかで必死に謝罪を口にする。
こんな後ろめたい気持ちを、彼女に知られたくなかった。
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