強引上司とオタク女子


 とりあえず私の出番は終わったようなので、帰ろうと立ち上がると、国島さんが追ってきた。


「川野、ありがとうな」

「いえ」

「あと十分待てよ。一緒に帰ろうぜ」

「嫌です。帰ります」

「うわ、冷てー」


不満そうに唇を尖らす国島さんを振り切ってきたはずだったのに、どこでどう頑張ったのか、彼は乗換駅で追いついてきた。


「……うわ、ストーカー」

「失礼なことを言うなよ。上司に向かって」


息を切らしながら言われても困っちゃうんだけども。
仕方なく、一緒に電車に乗り込む。まあ三駅の我慢だ。


「降りたら飲みにいかないか」

「嫌です。そういう気分じゃないんですよ」

「ヨーグルトの点数やるから」

「それだけじゃ釣られないです」

「じゃあどうすれば俺と来る?」


手首をぐいと掴まれて、驚いて彼を見上げる。

電車内は座席が埋まる程度には混んでいて、車両の端で立っているとはいえ、こんな風にもみ合っていたら人目を引くからやめて欲しい。


「電話の途中から様子がおかしいよな。なんて言われた?」

「なんでもないです」

「なきゃそんな顔してないだろ」


そんな顔ってどんな顔だよ。
自分でも自分がわからないよ。


「『他ならぬ川野の頼みだから』って言われただけです」

「いいじゃん。なんでショックなわけ?」

「ショックってわけじゃ……」


逆だ。私はそれを嬉しいと思ってしまった。
明日美の彼氏に対して、思ってはいけないことを思ってしまった。


「こら」


眉間を指で触られる。

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