強引上司とオタク女子
「この後、写真撮影会を三十分後にお願いします」
国島さんがスケジュール表を見ながら劇団の皆さんに確認していく間、私は人の隙間を縫うようにして、冷やしてあった紙パックのお茶をクーラーボックスから出して配る。
「川野」
大体配り終えた頃、三笠くんが私を呼び止めた。
「何? あ、明日美が最前列で見てたの気づいた? 何か伝言あるなら伝えてくるよ?」
「いや。このイベント終わったらさ、一緒に飲まない?」
「いいよ。社内での打ち上げは来週だから。でも三笠くんも劇団の仲間となんかあるんじゃないの?」
「今回はねーの。終わったら電話くれよ」
「んー、分かった」
その後、写真撮影会が終わる前に、私は休憩に入るように言われ、明日美に電話をかけて待ち合わせをした。
「八重ちゃん、どのくらい抜けてられるの?」
「一時間くらいかな。なんか食べたい。明日美付き合って」
「あの屋台、混んでたけど美味しかったよ」
工場脇に並んでいる沢山の屋台。B級グルメが多そうだけど、まあいいか。
並んでいる合間に、夜の約束の話をする。
「うん。聞いてた。俊介くん、楽しみにしてるみたい。でも私、今日は帰るね」
「え? 明日美一緒じゃないの?」
「明日、新しい生地が届くから朝早くから出勤なんだ。だから」
「だって。明日美がいなかったら行けないよ」
二人でとか、会えないって。
信用されても困るよ。私を放置しないで。
だけど明日美はニッコリと笑って、私の手を握った。
「行ってあげて? 私のことは気にしなくていいから」
「でも」
「私ね。八重ちゃんが大好きだよ」
その時の、にっこり笑った明日美の顔が脳裏にこびりついた。
そこで屋台の順番が来て、謎の黒ずみの焼きそばを私は手に入れる。
明日美は美味しいといったけれど、味なんか全然わからなかった。