強引上司とオタク女子
「三笠くんとどうこうなる気はないってずっと言ってるじゃないですか。お願いだから一緒に来てくださいよ」
「俺、会社に荷物持って戻らなきゃならねぇんだよ」
「手伝いますから」
「いいよ。お前は行って来い」
「やだ。お願いですから」
思わず、国島さんの腕を掴んでしまった。
私が、自分から彼に触れたのはおそらくこれが初めてで。
あっちもそれが分かっているのか、驚いた顔で凝視する。
次の瞬間、顔をゆるめた彼は、私にデコピンをした。
「痛っ」
「バーカ。そんな顔すんじゃねぇよ」
だから、どんな顔。
国島さんこそ、そんな優しい顔しないでよ。
「いいから行って来い。今日がチャンスだと俺は思うぞ」
「でも……」
電話が鳴る。三笠くんからだ。
国島さんは立ち上がると、「じゃあな」と告げて台車を転がしながら駐車場に向かってしまう。
残された私は、既に六コール目を鳴らす電話にでた。
「はい」
『川野? 俺。もう出た?』
「ううん」
『俺もまだいるんだ。工場の東裏まで来てくんない?』
「え?」
工場の東裏なんて、なんでそんなところに?
不思議に思いながら、私は歩き出す。
三笠くんのところに向かっているのに、頭には国島さんがちらついている。
胸が切なくて苦しい。
こんな気持ち、以前もあった。
三笠くんが、明日美を好きだと言った時。
「ほら」と明日美の背中を押した私は、確かに今みたいな切なさを味わった。
でも今は……。