強引上司とオタク女子


「君の好きな相手には恋人がいる。相手は君の親友だ。言えるはずがない。だから、気持ちを押さえることが
皆のためだと思ってたんだろう?」

「……うん」

「だけど二人は何年付き合っても結婚はしない。君は宙ぶらりんなまま、恋するという気持ちそのものを封印した」


三笠くんは、気づいていたのかな。
それを思うと気恥ずかしくて泣きたくなるけど、でも今彼は“ミカゲ”だから聞いてみよう。


「どうして、二人は結婚しなかったのかな。十年近く付き合ってるのに」


生活が安定してないから?
でも三笠くんは一時期、テレビにも出て高収入だった時期があったはずだ。


「……彼女がね、君に恋人ができるまでは嫌だって」

「え?」


驚いて見つめると、彼は私の目の前で変化するように頭を振って微笑んだ。

その柔らかい表情はもう“ミカゲ”のものじゃなかった。
生身の、三笠くんが私の目の前にいる。


「彼、……俺は、昔一度プロポーズしたんだ。でも『八重ちゃんに彼氏ができたらね』って言われた」

「どうして」


そこで、三笠くんは苦笑して小首を傾げる。


「川野は本当に明日美が気づいてないと思う? 俺の女は結構鋭いよ。そしてずるいところもある。川野が言わないのをいいことに知らないふりをしているだけだ。明日美は川野が大事で、失いたくも傷つけたくもないんだ。でも俺のことも好きだろ? どっちもとるには、知らないふりをするしかなかったのさ」


明日美の声が木霊する。

『私ね。八重ちゃんが大好きだよ』


明日美は今日、三笠くんがこの話をすることを知っていたの?
だから、今日は帰るねなんて言ったの?

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