強引上司とオタク女子


 私は会場まで公共交通機関で来ていたので、会社に戻るには遠回りだった。
駅に着くなり息を切らしながら走る。今日はイベントのために動きやすい格好だったのが幸いだ。

このまま走って会社に行っても、既に国島さんは帰っているかもしれない。

でも予感があった。
なんとなくだけど、彼は私を待ってるんじゃないかって。

エレベーターを待つのももどかしい。
一階から五階にあがる間も、足踏みをしながらはやる気持ちを必死に抑える。


「国島さんっ」


社内は本来お休みの日だから人気はない。国島さんはいつもの自分の席で、悠々と座っていた。


「……三笠くんは律儀だな。ちゃんと電話くれたぞ」

「いつからそんな仲良くなったんですか」

「今回は仕事相手だったしな。それに、……もう一つ頼まれてることもあるし」

「は?」

「いや、いい。それより、息切れてるぞ、座ればどうだ」


予想外に冷静に対応されると、勢いが削がれちゃうじゃないか。
なんだか恥ずかしくなって黙りこむと、目の前にヨーグルトの内蓋が差し出された。


「ほら、最後の一点」

「……っ」


もう、ダメ。
一度言葉に出したら、そっちのほうがずっといいって知ったら、黙ってなんかいられない。


「私、国島さんが、すっ……好きですっ」


国島さんの手から、内蓋がひらりと落ちる。


「あっ」


思わず追いかけて手を伸ばしたら、彼の腕に邪魔された。

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