強引上司とオタク女子
「まあいい。同じ所に行くんだから一緒に行くのはいいだろ、八重」
ガスバーナーに火がついた時みたいなボッという音が自分の中に響く。
今、名前っ、名前呼ばれたよね?
鼻歌を口ずさみつつ歩き続ける彼は、まるで平然としていて。
悔しいよ。私だけ?
手が触れてドキドキするのも、名前呼ばれるだけで心臓止まりそうになるのも、
一緒に歩いているだけで、気恥ずかしくて消えてしまいたくなるのも。
コイビトドーシなんて言葉、自分には一生縁がないだろうと諦めていたのに、よりにもよって二十六になってからそんな相手が出来ようとは。
嬉しいけど、どうすりゃいいんだかわからないよ。
そのまま、電車に乗り込んだ。
混んでいる電車の中で、さり気なくガードしてくれているんだろうけど、距離が近いって。
顔が熱くて、脈が早い。ドキドキするってやつだわこれ。
なんか、普通に電車乗るより疲れるよ。
「国島さん、近いって」
「混んでんだから仕方ねぇだろ」
「でも」
「それが嫌なら15分早く起きろよ。なんなら起こしてやろうか」
「朝から電話とか面倒じゃないですか?」
「一緒に寝りゃ面倒じゃあねぇだろ。泊まってやるよ」
「はっ……そ、それは結構です!!」
思わず大きな声が出てきてしまって、周りが一瞬ざわつく。
国島さんは余裕の笑みで、私ばかりが恥ずかしさに顔を赤くする。
背が高くて、好きだと自覚してからは前より格好良く見える国島さん。
歳は二つしか違わないけど、確実に恋愛経験値で言ったら私がかなり下にいるはず。
私は本当に、この人とお付き合いなどできるのだろうか。