強引上司とオタク女子

数十分資料とにらめっこしてみるも、どうにも集中出来ない。
これは気分転換が必要だ。


「ちょっとトイレ行って来ます」


言い訳みたいに宣言して、デスクを立つ。

国島さんの視線がちょっと上がったのが分かって、恐ろしいのでそそくさとブースを出た。

廊下に出て、ホッとして携帯を取り出す。


【ごめん、今日ダメになったー。残業。もう上司が酷くってさー】


とりあえず明日美には早々にキャンセルを告げようとメールを打つ。
明日美は何事にも真面目なので、きっと今頃、今日の約束のために必死で仕事終わらせようとしているだろう。

送信ボタンを押して、フーっと一息つくと後ろから野太い声をかけられてぎょっとする。


「男か?」

「はぁ?」


一メートルしか離れていない距離で、こっちを睨んでいるのは国島さん。

いやあああ、なんでアンタも出てくるのよ。
仕事しろよ、仕事。


「いや、あの、ちょっと休憩ですよ、あはは」

「別に隠さんでもいい。お前に彼氏がいるのは結構有名な話だ」

「は? 誰がそんなことを」


聞き捨てならないな。

一度たりとも彼氏などいた事ありませんけど。
誰だよ、そんな嘘情報流したやつ。


「俺の歓迎会の時、お前一次会でそそくさと帰ったろう。入社以来ずっとそんなだって聞いた。きっと厳しい男が待ってるんだろうって噂になってる」

「……は?」


なんじゃそら。

その理屈で行くと早く帰る女や男は必ず相手がいるの?
なにその短絡思考!


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