柚と柊の秘密




「戸崎、悪い」




箸を持ったまま硬直しているあたしに、健吾君が言う。

悪いといいながらも、まったくにっこりもしない。

だからなぜかあたしが笑っていて。




「ううん!

すっごく美味しそうじゃん!

俺、はやく食べたいなぁ」




なんてありえないことを言っていた。





あたしの馬鹿。

どこまでお人好しなんだ?

こんなあたしを見て、怪訝な顔をする健吾君。

そうだよね。

あたし、馬鹿だよね。

こんなに食べられないなんて言いながら、はやく食べたいとか言って。

はぁー、もうテンパって訳分かんないよぉ。




必死で笑顔を作りながら、色んな意味で心臓がバクバク言って、そして身体は震えていた。

健吾君に嫌われたくない!

だけど、こんな油どんぶり食べられない。

あたし……

絶体絶命だ。



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