柚と柊の秘密
「俺、プロのアーティストになるのが夢だった。
才能もないのに頑張ってきた」
ううん、そんなことない!
健吾君、ギターも歌も上手だよ?
なんて軽はずみの言葉、出なかった。
健吾君が悲しそうに見えたから。
健吾君は遠くを見つめながら、話を続ける。
「正直、まだ夢は諦めきれない。
でも、無理だ。
優二も慎也もプロは目指していないし、俺がプロになれるとも思えない」
なんで?
そんなことないよ。
きっと……そんなことないよぉ。
「だから、正直柚が羨ましい。
父親が多才で、その才能を受け継いでいるから」
「そうなのかな。
でも……あたし、それしか取り柄ないよぉ?」
思わずそう言うと、健吾君は楽しそうに笑った。
「凄いことだ。
あの短期間で四曲も完成させるなんて。
俺に柚の才能があったら、夢を諦めなくて済んだのに」
そんなこと言われると、嬉しいけど切ないよ。
あたし、こんな才能いらなかった。
出来ることなら、夢を諦めきれない健吾君にあげたかった。