柚と柊の秘密











授業なんて耳に入らなかった。

ただ、健吾君と将来のことを考えていた。





あたし、将来の夢なんてなかった。

興味のあることもなかったし、やりたいこともない。

ただ普通に働いて、結婚して、子供を産んで。

そんな当然の未来を描いていた。





でもね……

ギター、興味あるんだ。

あたしがここまで打ち込めること、他にはなかった。

それに、健吾君の役に立てるなら。

それなら、プロを目指してもいいか、なんて思ったりもする。





でも、少しお父さんに相談したんだ。

そしたら、お父さん、すごく複雑な顔をしていた。




「柚ちゃん、あの世界に入ると、プライベートなんてなくなるよ」




お父さんはあたしに優しくそう言う。




「どこに行っても追いかけられるし、あり得ないこと報道されるし。

全く別の人生を歩もうと仕事を始めても、噂やイメージは付いて回る」





そうなんだ。

お父さん、色々苦労してきたんだな。

だから、お父さんはあたしのことを思って言ってくれている。

それはすごく分かっている。

だからこそ、最後の決断が出来ないんだ。

あたしは、どうすればいいの?



< 283 / 363 >

この作品をシェア

pagetop