柚と柊の秘密
授業なんて耳に入らなかった。
ただ、健吾君と将来のことを考えていた。
あたし、将来の夢なんてなかった。
興味のあることもなかったし、やりたいこともない。
ただ普通に働いて、結婚して、子供を産んで。
そんな当然の未来を描いていた。
でもね……
ギター、興味あるんだ。
あたしがここまで打ち込めること、他にはなかった。
それに、健吾君の役に立てるなら。
それなら、プロを目指してもいいか、なんて思ったりもする。
でも、少しお父さんに相談したんだ。
そしたら、お父さん、すごく複雑な顔をしていた。
「柚ちゃん、あの世界に入ると、プライベートなんてなくなるよ」
お父さんはあたしに優しくそう言う。
「どこに行っても追いかけられるし、あり得ないこと報道されるし。
全く別の人生を歩もうと仕事を始めても、噂やイメージは付いて回る」
そうなんだ。
お父さん、色々苦労してきたんだな。
だから、お父さんはあたしのことを思って言ってくれている。
それはすごく分かっている。
だからこそ、最後の決断が出来ないんだ。
あたしは、どうすればいいの?