風と雪
1階は風読み屋になっている。
冷たい空気が流れていて、肌寒い。
「冷えますね。」
フォルクハルトがそう言いながら指を動かすと隙間から入ってきたであろう風が動きを変えてカーテンを開ける。
「日当たりは良好!」
日向に行くと雪蘭は笑った。
「そうですね。」
そう言いながら自分の格好が寝巻きのままだと気付いた。
「あぁ、着替えないと。」
「ふふ、そうね。」
雪蘭は面白そうに笑う。
「少し、店番を頼めますか?」
風読み屋の看板を表向きに扉へ立てかけるとフォルクハルトは雪蘭に言う。
「任せて。」
雪蘭はにこっと笑う。
「ありがとう。」
そう言うと着替えるために2階へ行った。


服を脱ぐと鏡に映った自分を見る。
背中に大きな痣。
羽根のようにも見えるその痣は天使との契約。

『2年後にまた会オウ。』
天使はそう言って背中に痣を残した。

(そういえば、確か……)
フォルクハルトは着替えながら日付を見る。
「2年後」
今日がその日だ。
一体、何を差し出すことになるのだろう。
予言の通りに、大事なものが出来た。
契約の通りに、力を得た。
あの天使と名乗った生き物は嘘はつかないようだ。
ということは、どういうことなのだろう。
もやもやとしたままで階段を降りようとする。
“ズコッ”
「へっ!?」
段差を踏み外して、転がった。
「うわぁあああああ!!!」
「え?」
下に居た雪蘭が何事かと飛び出す。
「ふぉ、フォルクハルト!?」
「よけてくださぁあああい」
その叫びも虚しく、雪蘭はフォルクハルトに巻き込まれる形で倒れた。
「いったたた……」
「ご、ごめんなさい。」
フォルクハルトが下敷きになる形で着地したものの、元凶であるだけに申し訳なさそうだ。
「ふふふ、あはははは!!」
雪蘭はフォルクハルトの上からおりると大声で笑った。
「ちょっと……笑わないでくださいよ。」
「ごめん。でも、ふふふ……おかしいんだもん。あはは!」
「もう!」
フォルクハルトは困ったように肩を竦めた。
「どうせ、考え事でもしてたんでしょう?」
「……そうです。」
「言ってみなさい。」
雪蘭は母親のような口調で言った。
「いえ。大したことでは……」
フォルクハルトはしどろもどろになった。
天使のことは彼女は知らない。
この背中の痣も知らない。
「言えないこと?」
「いいえ。」
言わなければならないことだ。
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