風と雪
取引のことも、期限が今日だということも。
けれど、先がわからない。
どうなるのか。
それが雪蘭にとって何を意味するのか。
「雪蘭。」
フォルクハルトは雪蘭を抱きしめる。
「!?」
雪蘭は驚いている。
「雪蘭。」
もう1度呼んだ。
「貴方は私のただ1つの希望。だから……どうか、どうか、行かないで。私を置いて、離れないで。」
「急にどうしたのよ。」
雪蘭は困っている。
「私は……この身がどうなろうと、どうでもよかった。貴方に会うまでは、何も失うものなどなかった。でも、今になって思うのです。……失うのがこわい、と。どうでもいいこの身さえも、貴方と居られるのなら惜しいとさえ思ってしまう。愚かにも生きたいとさえ、思うのです。」
「まるで今から死ぬみたいな口振りだね。」
「……」
黙り込むフォルクハルトを雪蘭は撫でた。
「君の過去は詮索しなかったけど、大変なんだということはわかってるよ。」
静かに言う。
言葉を選んでるわけではない沈黙がゆっくりと訪れる。
「どんな過去でも私は君を選ぶ。傍に居てくれるなら、君がいい。……だから、生きていたくっていいの。それは愚かじゃないわ。大事な人を置いていく方がよっぽど愚かよ。」
そう言われた瞬間、眩しい光が差した。
窓からでも電灯からでもない。
一面が白く光る。
それもつかの間で、女が現れた。
異形の片目、金髪に蒼い目。
背中には羽根。
「ウィンディア。」
「覚えていてくれたノカ。ウレシイ。」
心底嬉しそうに笑う天使にフォルクハルトは雪蘭から手を離した。
「契約を覚えてイルナ?」
「はい。」
フォルクハルトが頷くと雪蘭は突然の出来事にどうしていいかわからない顔をした。
「契約?」
「オマエには危害は加えナイ。安心シロ。」
ウィンディアは優しげに話す。
「代償は、オマエの……」
そう言ってフォルクハルトの首を掴んだ。
「魂ダ。」
ゆっくりともう片方の手で後頭部を撫でる。
2人が息をのむ。
「……と、言いたいトコロダガ。天界の掟では、魂を操る役目が決まってイル。」
「当たり前じゃない!」
雪蘭はフォルクハルトを抱きしめてウィンディアを睨む。
「その代わりに、堕天使を探してもラウ。」
「堕天使?」
フォルクハルトは眉を寄せる。
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