風と雪
「“方舟”には天属として選ばれたものの器が眠っている。いわば、天使の死体の宝庫ね。まぁ〜、天属だから、天界に居る全てがいるけど。そして、魂を吹き込み、地上へ送られる。この肉体は地上で死んでもどのような埋葬をしようとも戻ってくる。」
アイリーンは親切だと言いたげな表情だ。
「天界の兵士は天界の掟に背いたものを葬る役目。天界の兵士に殺された天属は方舟へ行けない。直接、地獄界へ落とされる。仕組みはペネムにでも聞いてよ。」
「ペネム?」
「物知りガリ勉天使。」
「侮辱はユルサナイ。」
「ウィンディアは良い子天使ちゃんだもんねぇ〜、同族は守りたいもんね。はいはい、アタシが悪ぅございます。」
「アイリーン。」
ウィンディアは剣を出す。
「言ってオクガ、魂を還すことはデクルンダゾ?」
「ふん。その剣は人間以外を殺せる、人間大好き神様の依怙贔屓道具じゃない。そんなちゃちなものは怖くない。」
そう言うとアイリーンも剣を出す。
「堕天使とはいえ、元は天使。同じものを持ってるのよ?」
「堕天使の分際で神の加護を使うトハ。」
「神の加護は天使の初期装備なんですぅ〜、ざんね〜ん!!」
アイリーンはきゃっきゃと笑う。
「そこの新米兵士さんに頼んだら?ま!返り討ちにするけどね。」
「人間は殺せないんでしょう?」
フォルクハルトはアイリーンを見据える。
「雪蘭を返しなさい。」
「アンタさぁ、自分の立場わかってんの?悪いけど、この“天界の剣”以外では殺せちゃうんだよ?堕天使なめんな。」
「ふざけるな。」
その怒りに呼応するように嵐が吹き荒れる。
周りの物がバタバタと飛ばされ、アイリーンの頬へ一筋の傷を与えた。
「やるねぇ。」
そう挑発して雪蘭を投げる。
「面白くなってきた!また遊ばうね。」
雪蘭を受け止めたフォルクハルトへ手を振ってアイリーンは去った。
ウィンディアもいつの間にか消えている。
「……本当に、嵐のようだった。」
へたりと座り込んでフォルクハルトは雪蘭を見る。
「すみません。」
そう謝ると雪蘭が目を覚ました。
「何謝ってるの。」
「えっ、あの、」
「フォルクハルトはよくやったよ。」
雪蘭は立ち上がると倒れた物を起こす。
「……でも」
「くよくよしない!」
きりっと目を釣り上げる。
「それよりも、片付けなきゃ。」
「そうですね。」
フォルクハルトは苦笑する。
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