吸血鬼、頑張ります。



アレは人間魚雷だ。


もしくは、水上バイクのエンジンが搭載されているのではないのか・・・。


並のクロールではない。


鉄観音は泳いだ。


必死に泳いだ。


あの泳ぎを、他の人が見たら、どう思うだろうか・・・。


「いかんぞ!絶対にあんなチートは、いかんぞ!」


身体中が吊りそうになりながら、声に出した鉄観音。


弾みで水を大量に気管に吸い込んだ。


「くはっ!ゲボッ、ゴホッ!!」


パニックに陥る鉄観音。

瞬間、足がピキンと吊り、固まる。


「あ、あああ・・・俺、ダメかも・・・知れない・・・」



そう思った瞬間、何かに抱き抱えられて一直線に岸に向かって投げ飛ばされた。



「う、うわぁぁぁぁっ!!」


鉄観音は木の枝にぶつかり、湖の柔らかい泥の上に落下した。


べちゃん・・・。



全身泥塗れの鉄観音。



「王。大丈夫ですか?」


イブが泥にまみれてめり込んでいる鉄観音に言う。


必死に泥から顔を抜いて、


「だ、大丈夫なように見える!?」


と、イブとは逆を向いて言う。


方向も解らないまま、吹っ飛ばされた鉄観音は、目も開けられないまま、憤慨していた。



そんな鉄観音を見ながら、皆は大いに笑った。



「笑い事じゃないよ!」

一人憤慨する、泥塗れの中年を見て、笑わない方が無理なのであった。

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