吸血鬼、頑張ります。
蕪木森の入り口には祠がある。
昔から崇敬された神社も一緒に併設されていた。
御神体で奉納されているのは鏡である。
科学が発展していない昔、神託を与えてくれる交渉に使われていたものだった。
昔から吸血鬼の一族と接点のあった村人達の、信仰の名残だろう。
実際、蕪木家は蕪木神社を通じて、この狭い範囲に暮らす人々と共存をしていた。
蕪木家の本来の役割は、日本のみならず、アジア全域に生息する見えざるものや、妖怪達の管理・管轄が仕事であり、
人間と妖怪とが、住み分けて生きていくための調整役が生業であった。
しかし、本拠地を置いて活動する以上、地元の理解は必要不可欠であり、
本拠地周辺にはある程度の貢献をする必要が在った。
そのため、時には人間の戦争や病気などから地域を守ったりしていた。
大概は神や仏の領分だが、いかんせん無限に毎日願いが届く中で、神や仏も昔から慢性的な神手不足に悩まされ、悪循環に陥っていたのが常である。
稀に、人なのに神がかった者が産まれてくるのには、こうした事情が存在している。
存外、妖怪や見えざるものと言うのは、人に依存する以上、人を助けなければ成り立たない訳で、
神仏の手が回らない現状を打破すべき存在に、勝手に成り立たされていた。
八百万思想と言うのは、何気にモノノケの類いも含まれており、人を害する神が居るのも、そんなわけである。
そうした複雑な事情を知らない蕪木森周辺の集落は、毎年夏に夏祭りを行っていた。
蕪木神社を中心に、夜店が並び、神輿や屋台が練り歩き、花火大会も開催されていた。
否応なしに、蕪木家の面々も浮き足立つ。
世代交代して初めての神社の祭だ。
イブも朝から鼻息が荒い。