吸血鬼、頑張ります。
「やっぱ吸血鬼はすげぇな」
月山いりえは、職員観覧席から綱引きを眺めて、鉄観音に言った。
「う、うん。なんか光ってたもんね、香織ちゃん」
「あれが魔導を掛けられるって事なんだよ。解るか、鉄?」
「魔導って、攻撃して粉砕するだけなのかと思ってたけど、色んな使い方があるんだね」
「そうよ。だから、魔導師組合は国家機関から熱く注目され続けてる訳だな」
「下手したら、魔導師で世界は変わっちゃうよね?」
「ああ。だから何処にも属さない独立機関なんだよ」
「あれだけ力があれば、妖怪とかだって、簡単にやられちゃうんじゃないの?」
「バカ!妖怪は人間みてーに簡単にやられねぇんだよ。
あいつらは物質であって物質じゃねえ。
人の心にも住めるし、魔導師の知らない所で人に害を成す奴もいる」
「あいつら妖怪が束になって人間を襲ったら、いくら魔導師だって守りきれねえのさ」
「そうかな・・・。余裕だと思うんだけどな・・・」
「はっはっはっ。
鉄、おめえは未だ人間だ。
だがな、人間の寿命が終わった吸血鬼ってのは、ほぼ、無敵だ。
組合の総帥でもお前を完全に消滅させるのは不可能だ。
だからテメーは妖怪の王様なんだぜ?
何回も聞いてると思うが、吸血鬼は人に依存する。
血液を吸わなければ消滅するからな。
だから、人と妖怪とが住み分けする為に、お前が妖怪を指導するんだ」
「うん・・・分かってるんだけどね。
でもさ、最初から俺達が居なければ、住み分けとか考えなくていいんじゃないの?」
「はぁ・・・ほんと、わかってねぇなお前・・・」
月山いりえはため息をつく。
「実際、神様って居ないんだよ。
な?解るか?
人がいて神様が居るんだよ。
だけど神様って信じる訳だろ?
そこには何がある?
願いだ。
自分に対する願いや、人を思う祈り。千差万別色んな願いがある。
だけどな、願いがあると言うことは、反対もある。
そう、つまりは呪いだ。
神様を具現化するように、呪いや叶わなかった願いも具現化する。
それが妖怪の存在だ」
「人が、願う以上、
バランスが生まれて、均衡を保とうとするのが人間の世界だ。
古事記でも書いてあるだろう?
毎日千人命を奪うけど、千五百人誕生させるって。
呪いも願いも同じ人間がいる以上、バランスされてるって事なんだよ」
「そうか・・・。
つまりは妖怪は必要悪として存在しなきゃって事なんだね」
「そ、つまりはそれ。
あ、そろそろ2回戦始まるみたいだぞ。
ああ、参加してえな!!」
二人はこんな会話をしながら、次の綱引き2回戦を見守る。