吸血鬼、頑張ります。
紅白学年別徒競走。
初等部から始まる100m走である。
各学年、クラスから10名ずつが走る。
選抜選手によるレース。
初等部四年生のクラスは、沙織が出場する。
魔導が使えない沙織は、ロザリオで制御されながら、他の生徒の魔導を受けながら、走らなければならない。
しかし、当の沙織は全く意に介していない。
もう、運動会が楽しくて楽しくて仕方がない様子なのだった。
徒競走の場合、自らに魔導を掛けて力を倍増させるが、100m位の短い距離に於いて、発動速度が掛かりすぎる。
なので、相手に干渉させる魔導が有効になる。
小さい魔導で良い。
一瞬足が痙攣する魔導や、躓かせる魔導。
相手に怪我を与えた場合は反則負けになる。
様々な都合の良い魔導を、お互いが考えている状況のなか、レースは始まった。
初等部は魔導が得意ではない。
と言うか、上手に使えない。
何人か得意な子供も居るが、発動速度が遅すぎる。
初等部は殆どが体力勝負の走りになる。
沙織達の番になった。
火薬ピストルが鳴る。
ぱん!!
その音と共に、沙織は脱兎の如く、走り抜けた。
凄まじい速さだった。
魔導が沙織に掛かる前には既にゴールしていた。
ゴールをした沙織は、いきなり躓いた。
「???」
状況が呑み込めない沙織。
今になって他の生徒が放った魔導が、沙織に作用したのだった。
100m、
10秒ジャスト。
息切れ一つしないのは、沙織が吸血鬼のゾンビタイプであるからだ。
沙織は、スタート位置に逆走する勢いでいるのを、
先生達は止めていた。
余りの速さに、会場は呆気にとられていたが、徐々に拍手と歓声が沸き上がる。
誰の目から見ても、凄まじい走りに映っていた。