吸血鬼、頑張ります。
山奥に、深い森の奥に、3メートルある鉄の柵と強靭な鉄の門の更に奥に、
【風雲、蕪木城】が、突如として姿を現す。
中世ヨーロッパの城をリアルに再現した立派な建物なのだが、城の玄関には風雲蕪木城と書いた表札がくっ付いていた。
「王様・・・何なんですかこれ?」
「香織ちゃん!何も言わないで!」
顔を手で隠す鉄観音。
「それにしても・・・悪趣味な家ですね・・・」
「香織ちゃん!この家の趣味とかには触れないで!」
扉を開ける。
グギギギギ〜・・・。
不気味な音が響き渡る。
「誰も居ないから、好きなように住んでいいから」
「王様〜ありがとう!」
沙織は嬉しそうに駆け回る。
「あ、二人に言って置くけど、基本的にゾンビは眠らなくても平気だよ。あと、お腹も減らないからね」
「え?本当ですか?」
香織は鉄観音に聞き返す。
「うん。お腹が減る感じとか、眠い感じとか在るけど、生前の記憶がそうさせてるだけだから」
「じゃあ、美味しい物を食べてもなにも感じないのですか?」
「いやいや、生前食べたものなら味を記憶しているから、同じ味に感じるけど、経験していない感覚は何も感じないからね」
「そ、そうなんですか・・・。
じゃあ、美味しい物を沢山食べておけば良かったです・・・」
「まあ、香織ちゃん。
肉体は今のままで腐ったりしないから、何かを犠牲に何かを得る事は仕方ない事なんだよ」
「はぁ・・・そうですね。感謝しております」
香織は少し淋しそうに、何も知らない沙織を見ていた。
「さて、今夜は眠ろう。俺、生身の人間だから、眠いし、働いていなかったからすんごく疲れた・・・」
鉄観音は埃っぽい階段を上がって、自分の部屋に入っていった。