吸血鬼、頑張ります。
「何て広い家なの!」
香織は溜め息をついた。
部屋数だけで30以上もある。
ちょっとしたホテル並みだ。
見かねた沙織も一生懸命手伝うが、バケツをひっくり返したり、窓を割ってしまったりと、香織の仕事を増やしている。
大理石の床と壁は冷たいらしいが、今は何も感じない。
割れた窓から入ってくる風の薫りは感じられないが、記憶が薫りを付け加えてくれる。
膨大な掃除量をこなしながら、香織は考えた。
生前の記憶は忘れない。
しかし、新しい記憶を上書きは出来ないらしい。
鉄観音がいる場合、鉄観音を介して新しい記憶が上書きされる。
きっと、主である鉄観音を守るためなのだろう。
沙織はどうだろうか。
小学四年生のままの記憶が、残ってはいるが、それ以上の記憶は出来ない。
つまり、消滅するまでずっと小学生のままなのだ。
香織は複雑な気分だった。
一生消えない記憶があっても、それ以上の経験も知識も無意味になる。
「これって、生きているって言うのかな・・・」
確かに心臓も血液も全て止まっている。
目も瞳孔が開いたままだが夜でも昼でもよく見える。
単純にレンズとして機能をしているだけなのかも知れない。
「自分の体じゃないみたい・・・」
香織は沙織と家の掃除を続ける。