吸血鬼、頑張ります。
「王様、我々のやるべき仕事は他にありますか?」
香織は鉄観音に聞く。
風雲蕪木城に住みはじめて1週間。
いくら広い屋敷であっても、1週間もあれば綺麗になる。
鉄観音も一緒に掃除をしていた。
不思議な事に、両親の残した物は一切無かった。
服も歯ブラシも靴もアクセサリーも、一切無かった。
子供の頃、あんなに沢山居た使用人の荷物も、跡形もなく消え去っていた。
残されていたお米は、何故か痛む事もなく、米びつに入っていた。
調理器具、清掃用具、生活品はそのままで残されていた。
ただ、人が居た生活の跡は何も残って居ないと言う不思議。
鉄観音は、吸血鬼の力を後継者に与えると言う事の意味を、改めて感じていた。
1週間の3人同居の生活で、虔属の意味も少しだけ理解できた。
「やっぱりどう足掻いても、この運命からは逃れられないんだなぁ・・・」
鉄観音は窓のサッシを拭きながら、そんな事を考えていた。
「確か、秘伝の吸血鬼マニュアルが在るとか、父親が言っていたっけ・・・」
ふとその事を思い出した。
「地下室がこの屋敷の何処かに在るはずなんだが・・・」
鉄観音は目を閉じて思い出そうとした。
「王様?どうかなさいましたか?」
香織は自分の質問に答えない鉄観音に聞き返した。
「あっ!思い出した!!」
鉄観音は廊下を走り出して、階段を降りていく。
「ちょ、ちょっと、王様!?」
香織も鉄観音の後を追った。