吸血鬼、頑張ります。
蕪木森は、特殊な結界によって覆われている。
原始の様相を呈したこの森は、古来より禁忌の森として地元民に敬われていた。
なにせ、一度足を踏み入れたものは出てくる事が出来ない。
地元民は祠を祀り、礼拝した後森に入る。
その自然豊かな立地から、林間学校等の施設が造られた。
毎年沢山の学校が利用するが、蕪木森には誰も足を踏み入れない。
佐々城ひよりはその事を知らず、蕪木森に入ってしまった。
無論、死を望むひよりにとっては、禁忌で有ろうが無かろうが、そんな事はどうでも良かった。
「さあ、ここで良いかな・・・」
ひよりは持ってきたロープを、太い枝に掛ける。
思い詰めた子供と言うのは、現状から抜け出したい一心であって、死の恐怖よりもむしろ、好奇心が勝っていく。
折れそうに無い太い木の枝にロープを器用に巻き付け、首にもロープを掛けた。
「遺書とか無いけど、恨んだ人とかはノートに書いてあるし、なんとかなるよね・・・」
一人呟いて目を閉じる。
小学生で、しかも四年生。
自分の一生に思いを馳せる間もないほど短かった自分の命。
佐々城ひよりと言う子供が、命を絶ったとしても、世界は平和にはならないし、不治の病の人が助かる訳でもない。
一時的に周りは騒がしくなるだろうが、いずれ忘れ去られていく。
ひよりは、諸行無常と言う言葉を知らなければ、聞いた事も無い。
「ごめんね、私の命・・・」
一言囁いて、足下の石を蹴りあげた。
体は前に倒れ込むように、足は宙を掻いたまま、ひよりの体を宙吊りにした。
静寂が森を包む。