吸血鬼、頑張ります。
森に倒れていて、心肺が停止した状態で、鉄観音が屋敷に連れてきた佐々城ひよりは、屋敷の一室にひとまず安置された。
鉄観音の回復を待って、イブ達は事情を聞いた。
「王。つまり、たまたま食事をしようとした場所にあの少女が倒れて居たと?」
「うん。手頃な石があって、そこで香織ちゃんが作ってくれたおにぎりを食べようと思って腰掛けたら、あの子が倒れてたんだ」
「決して麓の林間学校に来ていた少女を襲って、連れてきた訳ではないと?」
「あ、当たり前だよ!犯罪じゃん!それ!」
「ふ〜む・・・」
サザンクロス・クリスマスイブは首を傾げる。
「蕪木森には、誰も近付けないよう、強力な結界が張られているのはご存知ですよね?」
「うん。知ってるよ」
鉄観音は答える。
「近隣の地元民が、森に入る場合、祠で礼拝を行います」
「うん」
「それは神聖な儀式と言う意味合いではなく、あくまでも、森に入ってくる人間の数、名前、性別を、私達が知るためです」
「うん」
「あの祠は、蕪木城に直通する場所。言わばインターホンの役割を示していて、人間と我々との無用な摩擦や、干渉を避けるためのものです」
「あ、そう言う事か。アレでしょ、結界の森で、迷ったり怪我したりさせないために、入って来た人間を無事に返す約束をするみたいな」
「流石は王。頭の中にはまだ希望ならぬ知能が残って居ましたね」
「なっ!出来損ないのパンドラの箱じゃ無いからね、俺の頭の中!」
「話を続けましょう」
イブは鉄観音を無視して続ける。