吸血鬼、頑張ります。



「ていうか、なんで山に行ってたの?私達すごい怒られたんだけど」


ひよりの班で、班長を務める中橋エリは、ひよりに詰め寄った。


「だから嫌だったんだよね。あんたと同じ班とか」


辛辣な言葉をひよりに浴びせるその顔は、人に向ける顔ではなく、実に不愉快極まりないといった憎しみに満ちた表情だった。


ひよりに友人がいない。

信頼できる大人もいない。

両親ですら、ひよりには無関心で、ひよりの心は壊れていた。


他人を傷付けると言う選択枝も無いわけではなかった。


しかし、傷付ける対象に自らが割く時間が勿体無いと思い、自分が居なくなれば済む話として、自殺を選んだ。


つまりは人を憎む感情ですら萎み、表情すら人に向けるのがアホらしくなった。


死後の世界への情景と憧れが、ひよりにとっては希望になった。


「もう、部屋から出ないでね。お願いだから!分かる?絶対に、部屋から出ないでね!」



中橋エリは苦々しく吐き捨て、ひよりを部屋に残し、他の友達の部屋へ行ってしまった。


ひよりは1人、部屋に取り残された。



「ふん・・・。バカみたい。本心丸見えだっての」


ひよりは呟いた。


「死ねば良かったって思ってるくせに・・・」


ひよりは驚いた。


萎んでしまった様々な感情が、鉄観音達と出会い、吸血鬼に成った事で、甦ってきていた。


「あ、私今怒ってる・・・」


ひよりは嬉しくなった。

まだ小学四年生の女の子に、

この世界は余りにも残酷だったのだ。


ひよりは深呼吸をする。

拳を畳に思い切り突き立てた。



ガツン!



畳は床板が見える程に窪み、い草が散らばった。


ひよりの拳は何ともない。

痛みすら感じない。


今までの体ではない何か異形の力を感じていた。
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