吸血鬼、頑張ります。
ひよりは玄関に立って、中の様子を伺っていた。
中からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
3人の家族団らんである。
ひよりは弟の事を別に嫌いではなかった。
むしろ、血の繋がっていない弟だけれど、とても愛していた。
自分の父親も、母親も顔はおろか、存在自体知らない。
ただ、あの家に居る父と母の様なものは、出来るはずがなかった子供の誕生で、姉である自分に対して強い嫌悪と拒絶を与えた。
自らの都合で捨てられて、自らの都合で拾われて、そして、またもや自らの都合で捨てられようとしている自分は、
この世界に、最も必要の無い存在なのだと突き付けられているようで、
酷く悲しい気持ちに成っていた。
初めて触れた小さな命は、とても弱く、優しく、暖かい。
沢山の人に祝福され、両親から惜しみ無い愛を捧げられ、天使のように微笑む弟の姿を見たとき、
私もこの天使を大切にしようと心に決めた。
だが、親の様なものは私を除外しようと、
毎日毎日苦痛を与えてきた。
その苦痛に慣れれば、また違う苦痛を与えてきた。
感情の表しかたが、
出来なくなった。
しかし最後に、あの両親の様なものにお礼を言わなければならない。
ここまで育ててくれたお礼と、
ずっと楽しみにしていた林間学校に行かせてくれたお礼を。
あなた方が拾ってきた人間は、もう人と呼べるような者では無くなったのだと、
あの人たちに教えなければ・・・。
そして、私が愛した弟を最後に抱きしめたい。
ひよりは玄関のチャイムを鳴らした。