吸血鬼、頑張ります。
重い沈黙が部屋を包み込む。
意図していないタイミングでの帰宅。
父親と母親は凍り付いた。
まだ幼い弟は、姉の姿を見るなり、喜びながら走り出す。
ひよりは弟を抱き締めて、頭を撫でる。
「たーくん。ただいま」
優しく弟に言う。
弟を抱き、凍り付いた両親を見ながら、自分がいつも食事をする床に座る。
両親は一言も発さない。
床に無造作に転がる、ペット用の皿に、ひよりは自ら水を汲み入れる。
それをぐっと飲む。
「な、何で帰ってきた・・・」
父親がひよりに言う。
「そ、そうよ!まだ、林間学校の途中でしょ!」
母親も続けてひよりに言った。
ひよりは二人を無視して、弟とじゃれている。
「や、約束が違うじゃないか!?お前は、林間学校で自殺すると言うから、行かせたんだぞ!!
なのにおめおめと生きて帰ってくるとは、どういう事だ!」
父親が激しく怒鳴ったので、弟は泣き出してしまった。
「たーくん、たーくんの事じゃ無いからね〜、こっちに渡しなさい!!」
母親も激昂する。
ひよりは、弟をあやしながら二人を無視する。
「たーくん。お姉ちゃんと一緒に、ここから出ていこうか?」
弟は嬉しそうに泣き止んだ。
「そ、そんな事許されるか!その汚い手を離せ!子供が可哀想だ!」
父親がひよりから弟を奪おうと、手を出す。
ひよりは父親の手を掴むと、力一杯に捻り上げた。
父親の腕は、おかしな方向へ曲がり、のたうち回った。
「な、何て事するの!!」
母親は父親を助けようと近付いたが、父親はあまりの痛みで気を失っていた。
「あ、あなたっ!!」
父親にしがみついた母親の首を掴み上げると、そのまま食器棚目掛けて投げ付けた。
ガシャーン!!
凄まじい音が、部屋を駆けた。
ひよりは無言のまま、ペット用の皿に熱湯を注ぐ。
それを気絶した父親の股間の中に流し込んだ。
父親は絶叫し、目を覚ましたが、腕の痛みと股間の火傷でのたうち回った。
ひよりは母親の前に立ち、告げる。
「あの男は、私の体に色々な事をしたよ。私が喋らないからって」
母親は全身の血が噴き出す感情に襲われた。
「あんたが子供を作れないからって、私をベトベト触って、火傷してる所を押し付けたりされて・・・」
「や、止めて!!」
母親は怒鳴った。
「良かったねお母さん。たーくんが出来て・・・」
ひよりは、母親の目の前に包丁を置いた。
弟を抱きながら、部屋を出る。
背後の部屋からは、父親の断末魔の叫び声が聞こえた。