吸血鬼、頑張ります。



「結構、悲惨な現状ね・・・」


現場を見て、みさきは呟く。


「どうやら吸血鬼による犯行では無いようね・・・」



監視対象である蕪木一族の支配する地区で起きた、不可思議な事件と失踪の為、魔導師組合も動き出した。


現場に来る前に、林間学校に立ち寄り、吸血された女子児童にも会ってきていた。


「吸血鬼がトリガーに成った可能性は否定できないけど、吸血鬼自体が人を殺した案件ではないわ」

「大丈夫。子供達は無事です」


日野みさきは現場の警察に話した。


「おそらく、二人とも無事に保護されて安全なはずよ」


警察はみさきに聞き返す。


「行方不明なのに保護されたと、何故わかるんですか?」



「私には解るのよ。
あなた方は、目に見える痕跡で犯人を追い詰めていくでしょう?
私達は、目に見えない痕跡で犯人を見つけるの」


「はあ・・・」


日野みさきは続ける。


「死者と交信して、犯人を割り出す事だって、私なら出来るわ」


「えっ!?ほ、本当ですか!?」


「本当よ。まあ、ほとんどの場合、知らなくても良い事実まで知って、恨みを買って殺されるのがオチなね。
だから本当に解る人達は、自分からは言ったりしないものよ」


警官は訝しげに日野を見た。

「それって、どっちなんですか?本当に解るの?解らないの?」


「ふふふ。まだ、貴方みたいな警官が居るなら、この国も安泰でしょう。
せいぜい頑張りなさいな。
あ、二人は安全だと私から報告して置きます。
あと、現場の警官は優秀ですってね」


警官はちんぷんかんぷんのまま、生返事をする。

「そこの父親と母親はね、行方不明の女の子の本当の親じゃないわ。
しかも父親は女の子を、日常的に凌辱していたわね。
逆上した母親に刺されて死んだみたい。
父親の魂があんたにごめんなさいって言ってるから。
そう、あんたの左手を握りながら」


警官は血相を変えて飛び上がった。

しきりに腕をバタつかせながら、どっと汗をかいていた。



「うふふふ。冗談よ、冗談」


日野みさきは、そう言いながら家を出た。



「蕪木森に行くしか無さそうね・・・」


日野みさきは、そう呟いて電話を掛け始めた。



「ああ、総監?ええ。こっち絡みの案件も含まれてるから、組合も動くわ。
後は痴情のもつれと児童虐待ね。そっちはお任せしますから。
はい。じゃ、またね」


「久々に忙しくなるかな〜・・・」


日野みさきは車に乗り込み、蕪木森へ向かって走り出した。


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