吸血鬼、頑張ります。
「な!何ですかその子供は!!」
イブは驚いた。
「イブちゃん、ひよりちゃんの弟だって」
「生身の人間で、しかも天使のように可愛い子供じゃないですか!」
「3歳だそうだよ。可愛いよね」
「ぬあぁ〜食べてしまいたいくらいです!」
イブは今にも食らい付きそうに、ひよりの弟(琢磨)を見ていた。
「ダメだよ!君は本当に食べそうだな」
鉄観音はイブに怪訝な視線を送る。
風雲蕪木城にたどり着くなり、ひよりは倒れるように眠ってしまった。
恐らくは今までの絶望を一気に解消した事で、凄まじい精神の疲労を起こしたのだろう。
蕪木城の面々を見たひよりは、どっと安心して、倒れてしまった。
鉄観音の自転車の後ろで、弟を抱き締めながら一言も喋らず、一生懸命に背中にしがみついていた。
「王。虔属を作ると言う事は、その人の一生や周囲との関係を貴方が破壊して背負うと言う事なんです」
イブの言う事が、全部理解できていた訳ではない。
ただ、佐々城ひよりのケースを取ってみても、物語で伝わる吸血鬼伝説とは全く違う事実に、鉄観音も打ちのめされていた。
「なんか、すんごく大変じゃない?吸血鬼の王様って」
鉄観音はこぼした。
「王。貴方は未だ完全に覚醒した吸血鬼の王ではないのです。
人生を苦しみ、もがき、老いに怯え、人を愛し、人の道から外れた万民を慈しみ、やがて吸血鬼の王として器が出来ていくのです。
こんな事でどうします!
あなたはまだまだやらなければならない事が沢山在るのですよ?」
イブは叱咤激励しながら鉄観音を諭す。
「人間の家族などよりも強い絆を持つ、吸血鬼の血族。それを構築して、東洋の妖怪を統べる最大勢力を作るのが、我々蕪木一族の掟。
王不在の東洋の妖怪は、不可侵の条約を破り、人間界に介入していきます。
人を傷付けると解ったなら、我々吸血鬼は存在出来ません。何としても、不可侵の条約は我々が守らせなければならないのです」
イブは熱弁を奮う。
「え〜・・・。めんどくさいから止めようよ、そう言うの・・・」
「この森で、静かに皆で楽しく暮らそうよ」
鉄観音はイブに言う。
「はあ・・・このバカヤロウは、全く・・・」
イブは頭を抱えた。