吸血鬼、頑張ります。
しげしげと食堂の中を眺めるみさき。
食堂のテーブルには、虔属であろう面々が一同に揃っている。
みさきがリークした怪談の張本人も、そのテーブルに居た。
「あらあら、香織さんに沙織さんもいらっしゃったんですね」
みさきは二人の名前を呼び、ひよりの姿と弟の姿も確認した。
「日野みさき様、こちらへ」
イブは椅子を引き、みさきを座らせる。
「みさき様、あの対面に座る者が我が主、蕪木ハルシュバーン様で御座います」
ツカツカと鉄観音の隣に歩いていき、
「ハルシュバーン様。
あの者は、東洋魔導師組合の日野みさき様です」
互いの名を告げた。
みさきは開口一番に、
「初めまして、蕪木ハルシュバーン様。
この度は謁見をお許しくださいまして誠にありがとうございます」
と、挨拶をする。
「や、やあ。東洋?何だっけ?あ、解った。
東洋魔導師組合の日野みさき様。わざわざこの様な辺鄙な場所まで来て頂きまして、本日は何用でございますかな?で、良いの?」
イブに一々聞きながら、棒読みの様に鉄観音は答える。
「昨夜の一件について、少し話を聞かせて頂きたくて、早朝からご無礼は承知でまかり越しました次第です」
かしこまってみさきは言うと、更に続ける。
「早速ですが、本題に入らさせて頂きます。
昨夜、そちらの佐々城ひよりさんの家で事件が起きたことはご存知ですよね?」
「あ、うん。知ってますよ」
「そうですか。
人が一人亡くなった事も、勿論解っていますね?」
ひよりの肩がピクンと動いた。
「うん。ひよりちゃんの、その、お父さん・・・だよね・・・」
「そうです。母親に殺されました。包丁で滅多刺しにされました」
ひよりの顔が歪む。
鉄観音はそんなひよりの手を握って静かに話を聞く。
「あの、あなたは何が仰りたいのですか?」
見かねた香織が、話を割って入り込む。
「おや、香織さん。
貴方が消えた時は大変でしたよ。なにせ、死亡診断書が完成した後でしたから。
警察もほとほと困り果てて、わたくし共組合まで連絡を頂きまして。
すぐに吸血鬼の犯行だと解りましたので、都市伝説を流して真実を煙に巻いた次第です」
「え?都市伝説?煙に巻いた?」
「ええ。人間の精神衛生上、不都合な事が生じた場合、
合理的に説明できない案件は、全て私達が噂やデマ情報として世間に広く流します。
その不合理案件を警察や公安の代わりに調査、解明していくのが、我々魔導師組合ですので」
「イブさん!そうなんですか?」
香織はイブに聞いた。
イブは黙って頷く。
「話が逸れましたね。
で、昨夜の佐々城家での事なんですが・・・」
「あの〜・・・みさきさん。その話はもう、良いじゃないですか・・・。
ひよりちゃんは、俺が責任を持って引き取りますから。ね?
今は未だ話すには、この子が不憫ですよ」
ひよりの小刻みに震える手を握りながら、鉄観音はみさきに言った。
「ふむ・・・。まあ、いくら吸血鬼になったからと言っても、未だ日が浅いですし・・・。
吸血鬼に成った自分と、現実を完全には受け入れていないのでしょうけど」
みさきは続ける。
「今回の訪問の理由なんですが、そちらの弟さんは、我々で保護しなければなりません」
食堂の空気が、ピーンと張り詰める。
全員が触れさせないで居た問題に、みさきは手を伸ばした。