その瞳をわたしに向けて
エレベーターがついて、暗く非常灯しか点いていない廊下を行くと、扉の隙間から明かりが漏れた常務室の前で足を止めた


ほんの少し開いた扉の向こう側から話声がして、そっと扉を触らない程度にその細い隙間から様子を窺った


杉村常務と……もう一人………?

秘書の北川さんではなさそうだ


応接セットのあるソファの横で、不自然に立って見えるその杉村常務の背中に隠れる様な人影………



………っていうか、常務の腕の中にいる?



「?!」



隙間から覗く美月の目が、常務の肩越しからこちらを向いたその人物の顔を見据えた


話す声もなくなり、頭を屈める仕草と常務の首に白く細い腕がゆっくり絡み、背中だけしか見えない二人の抱擁でも熱が伝わってくる



思わず息を飲みその場を動けないまま、後ろにいる人の気配さえ気が付かなかった


「趣味の悪い覗きだな……」


美月の頭の上から低い小声がすると、いきなり肩を掴まれ、もう片方の大きな手で頭を引かれた


「きゃあっっ!いやぁっっ………!!」


驚いて、大声をあげると暗い廊下に松田の顔が見え、咄嗟に掴まれた手を振りほどこうとして体制が崩れた
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