その瞳をわたしに向けて
車中のカーステからは小さく今時の男性シンガーの歌が流れていた

車と離れた場所にある外灯の明りでもそれが差し込むくらい辺りが暗く感じる

「お前は思わせ振りな態度だったがな……」

「えっ………?」


「手を伸ばしてきただろ」

「それは…………」


松田の視線、目だけこっちを向いている


「…………だって、何となくで付き合いたくない。気が合いそうとか、趣味が合いそうとか、何となくいい感じだからって………」


そんなのまだ恋さえしてない

もっと、楽しみなもんでしょ………別に颯太君を引きずっている訳じゃないけど、その時みたいな気持ちがないもの……

松田さんの場合、本命は立花さんじゃん
私なんて、たまに目についただけじゃん


「普通、そんなもんじゃないのか?」

長身の松田はバンドルに腕をかけ顎を乗せる


「それは『好き』じゃない」

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