その瞳をわたしに向けて



暫く何事もなく、穏やかな日が続いた。





「清宮、今日はもう終わりか?」

エレベーターホールで松田に呼び止められた。一瞬身構えるが、前よりは声も小さく気を使って近づいてくれるのが分かる。

だから、美月もあれから何も変わらず普通に接していた。


「なんですか?」

これから部署に戻って、業務報告をしたら着替えて帰るだけだ

「これっ、帰り序でに経理に寄って置いて来てくれ」

美月の手に書類を渡してきた

「これって松田さんの出張費報告書じゃないですかっ、いやですよ」


美月は思いっきりその書類を、松田に突き返す。

経理なんて、ただでさえ一つ一つ説明を求められるし、女子社員の多い部署だけにあの雰囲気は苦手だ。まして、定時前のこの時間なんて有り得ない。


「今の時間の経理は俺もきついんだよなぁ………行くと長くなるから」

そう言って渋い顔をする

それはそうだろう…………。

松田さんは別の意味で引き留められる。女子社員の注目を浴びるこの人は、書類以外で話を長くされ、仕事の終わった後の予定
までしつこく足止めされる

< 129 / 432 >

この作品をシェア

pagetop