その瞳をわたしに向けて

「差し入れです……大した用事でもなかったので、外から通ったらまだ明かりがついてたし……」

松田から伸ばされた手を完全に無視して、ゆっくりとその場に立ち上がる


「大丈夫よ、そんなにかかってないし、もう帰る処だから」

手のひらを軽く振ってそう言う立花


「美月ちゃんも、もう遅いから……」

美月の方へ近寄ってきた立花が心配そうにそう言ってきた

そんなやり取りに、松田はいつの間にか背を向けて立ち去ろうと、エレベーターへ歩き始めた


「松田っ」


杉村常務が立花の後ろから声をだし松田を呼び止めた

その声に松田の動きがピタッと止まる


「松田、清宮さん送って行け、車だろ。方向も確か一緒だったし」


「はぁっ………えっ?!」


驚いて常務を見る美月に、立花もうんうんと頭を小さく上下する

常務は相変わらず柔らかい笑顔を見せる


「やっ………それはっ………」


無理……無理、無理、無理!

背中越しに顔だけこちらを向けて、松田の面倒臭そうな声が堕ちる

「………分かりました、行くぞ清宮」


へっ?! ちょっとぉ……真面目に?いやいや、無理だってば


早くしろっと言われ、思わずビクついてしまって……松田についていく様に背中を追った

もう一度振り返り、立花たちを見直すと、杉村常務が立花にいかにもプライベートの鍵のホルダーを渡している姿が見えて……ゆっくりと足を止めた
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