その瞳をわたしに向けて

「………会社では名前呼びしないって言ったのに」

資料室で松田を見上げながら頬を膨らまる美月


「誰もいないって……」


そう言って身体を屈めて覗き込んできた

「っていうか………お前も一人で倉庫とかに入るなって言っただろ。背伸びして手を伸ばして取れないとか…………
後ろから抱きつきたくなるだろ普通」

「そっそんなの………剛平だけよ」


基本エロおやじなんだから……


とりあえず気になった所の棚にあったファイルの整理をすませ、松田の方へ振り向いた



「今日はこれから出るんですか?」

「ああっ、打ち合わせに行った後販売部の品評会に呼ばれてるから……遅いだろうな」

「そう………確か明日からは大阪出張って」

冬に向けての商品開発が進んでいる今、夏の売上戦略の傾向と対策も議題にあがるため他の地方販売の手伝いをかねた出張が多くなる

同じ部署でもデート処か、社内で顔を見ない時すらある


「さみしいか?」


「?!」

一瞬過った気持ちが顔に出たのか、そう言われてカッと赤くなった

ブンブンと首を振って全然っと強がって顔を叛けると


「……じゃあ、滞在二日伸ばしてやっぱりイベント最終日の打ち上げまで顔だそうかな」


「えっ!!」

素直に思ったままの表情で顔を上げるとクックックッと肩を揺らして笑う松田


「分かりやすっ、いや?」


「………いやだ」


山崎主任がよく言ってた、地方のイベントに行くと松田目当てにそこの秘書課の綺麗所まで打ち上げに顔をだす、と………

そこは素直にいやだと言葉がでた
松田の大きな手が美月の頭を撫でながら、満足そうに綻ぶ顔が耳元まで降りてきた

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