その瞳をわたしに向けて

「告発に関しては、ここ一週間で報告書等会社内部で処理するか、組合か刑事告訴まで持っていくかは、あちらに任せてあります。正直清宮は全く関係ない事ですから。ただ…………社長解任、証拠隠しも考えられますから、ことは急いだ方が賢明です。」

「……………分かりました」


カウンターに並んで座る男二人、人の少ないそのバーラウンジでもチラチラと目配せしてくる女性は後をたたない。

保は先に頼んで初めから手にしていた飲み物の氷を揺らしながらふうっと息をついた


「あの川村とかいう社長、他にも黒い噂があるのは知っていましたか?例えばこの前の結婚して、半年で離婚した理由とか………」

「……………はい」


川村冷蔵食品を退社した人に偶然会った時、その話は聞いた。


体育会系の川村社長は、いわゆるDV (ドメスティックバイオレンス)らしい

奥さんから離婚訴訟もおこされて、
その後も、何人かの女子社員が被害にあっていて、その都度会社社長と言うこともあり、示談金等で収めているらしかった


「そんな社長を野放しにしていたあの会社上層部にも、問題がありますね。」

「…………」

「貴方は、そんな奴の近くに美月をおいていたのですね………しつこい食事の誘いを黙認していたんですか?」

保は松田を直視し、鋭い目付きを向ける


「美月は…………いえ、美月さんはその誘いには乗るなんて事はありませんでした。」

保は盛大な溜め息をついて、首を振った

「この先、忙しくなる貴方には美月を守る余裕はないでしょう。心配しないでください、美月に関してはこちらで対応しますので…………」


確かに急を擁すことなので、いそがしくなる。向こうにも悟られないように動かないと、美月が標的にならないとも限らない。


「…………お願いします」


頭を下げた松田の首筋にYシャツで隠れていたキスマークが保の目に停まった


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