その瞳をわたしに向けて

少しの間、二人に沈黙が漂う。
………がそれを崩したのは保の方だった。

「長い間御引き留めして申し訳ありません。私は、ここで失礼します」

そう言って、エレベーターに乗るために下へいくボタンに手をのばす。


「あのっ…………」

これ以上話す事は無いのだけど、美月がまた背を向けた感覚がして、思わず声をかけた。

「………あ、名刺を交換していただけますか?ロスで、貴社に関連するプロジェクトもあります、出来れば今後のために………」


「ああ、そうですね。分かりました」


そう言ってお互いの名刺を交換した

「…………すぐにあちらへお戻りですか?」

「ええっ、明日には……」

何となく交わし始めた会話

「では、名古屋に寄る予定などはありませんね……………」

「えっ?」

よく聞こえないほどの保の呟きに首を傾げるが、「失礼します」と何事もなかったように立ち去って行った。



俺がロサンゼルス支店に行った事を彼が知らなかった事が意外だった

てっきり本社の人間に、あの時それとなく海外への移動を口添えでもしたのかと思っていたからだ



いくら清宮と本社が仕事上繋がりあるとしてもそこまでの権限はないか…………


……………名古屋?




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