その瞳をわたしに向けて

PM7:00から始まった宴会は、三時間経ってすでに10時半を回っていた

そこから居酒屋の外で何人かのグループに分かれ、帰る人と二次会の相談をしている人とでザワついていた

美月といえば、二次会に行くつもりもなく、すぐに人混みから抜け出してタクシーを捕まえ乗り込んだ。


兎に角誰にも捕まらずに、さっさと帰ろうと運転手に行き先を告げる

ドアが閉まる寸前、そのドアに手がかかり大きな図体が入り込んで来た


「!!」


「悪いが一緒に乗らせてくれ」

隣に乗り込むと頭を低く屈めて同じ方向なのでと、運転手に告げた

タクシーの外を見ると、何人かの女子社員達が、松田を探していた

タクシーに乗り込んだ松田に気がついてない様子だった

松田を必死に探す女子社員達の前をタクシーが通り過ぎる

「……………」

「悪いな、俺の方が遠いから金は払う」

そう言って車窓に顔を向けた


「………いいんですか?みんな松田さん探してたみたいですけど」


「………ああ、もう疲れた。」

確かに、あの後部長達の中に紛れ散々相手をさせられていた松田

そのため、松田と飲み足りない若手連中が二次会で独占しようと目を光らせていた



松田と同じ車………嫌な記憶が蘇る


美月も車の窓の外の方に顔を向けた

沈黙の車内、タクシーの無線の音だけが静かに響く

美月は別に話をするつもりもなかった。松田だって喋りたくないだろうと思っていた

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