その瞳をわたしに向けて
「着きました」
美月の足がとまったのは、まだ新しい高層マンションだった
マンション前にはちょっとした庭園があって、入り口の先にロビーらしき広いスペースが見える
「………お前、一人暮らしか?」
口を開けたまま見渡す松田
「親所有のマンションなんです。でなきゃ一人暮らしなんて許してくれる訳ないじゃないですか………」
「…………親所有って一室か?」
「いえ? マンションがですけど……?」
「………」
あんまり関心する松田に何となくバツが悪くなる
大通りに面しているとはいえ、真夜中のこの時間帯、辺りはシーンとしてタクシーが通る気配がない。
「ここからどうするんですか?電話でタクシー呼びましょうか?」
「大丈夫だ、駅まで歩けばまだタクシー拾えるだろ。遅いからお前は早く入って帰れ。」
そう言って、駅の方向に足を向けた
「………ありがとうございました、送ってくださって……お疲れ様です。」
「じゃあな、お疲れ」
右手を顔の高さまで上げて足早に駅の方へ歩いて行った